肚から歩く(2)

奉納舞の基本は歩くことや立つことなどの何気ない日常動作の中にあります。そして、ただ歩くという動作ひとつで、観ている人々の心を惹きつけてしまうことができます。

 

歩くことに意識を行き渡らせている人は、あまり多くはありません。無意識のクセで何気なく歩いている方が大半です。舞のなかでは歩くという動作にたくさんの時間をかけて稽古をします。歩くという日常的な動作ひとつが、奥深いものであることに気が付いていく時間になります。

 

いまこの瞬間の一歩一歩に意識的であること。それは、かかとが地面に着く瞬間の感覚や、足の小指から人差し指まで順番に地面に着いていく感覚まで繊細に感じていることでもあります。

 

同時に正中線も意識して、身体の軸が整ってくる感覚や呼吸のリズムにいたるまで感じとっていく。真っすぐに見据えた目線の先の先まで意識が行き渡っているか。少し目線が下に向いているだけで、すぐに軸がズレてしまいます。

 

こうした意識的な歩きを続けていくうちに、肚で歩くという身体感覚につながることがあります。肚で歩くということは、自分軸が立ち上がっていて、グランディングされているということでもあります。

 

舞台に立つ際の本番には緊張感がありますし、人から見られている状態はプレッシャーがかかることもあります。こういった緊張感やプレッシャーのなかでも状況や他人に左右されることのない自分軸が立ち上がっている。

 

そして、歩くことに意識を置けるようになれば、日常の散歩や買い物、通勤の際の在り方にまで影響します 。日常は舞の所作に反映され、舞の所作もまた日常へと反映されていきます。